糸の色をコントロールするのは難しい。

10

最新作『菜の花と対岸に見える背割提とさくらであい館』の額装も終わり、いよいよ本番を待つだけになったのですが、この作品に関する私の感想などを書いてみようと思います。

とにかく糸をどう選ぶのかで苦心しました。この作品で私がとても気に入っているところは空の色あいです。空を糸で表現するのはとても難しいです。糸なので少しでも色が違うと、色の変わり目で段ができます。それが分からないように糸を選ぶのですが、この作品では春らしい霞んだ色合いがうまく表現できたと思っています。

菜の花の黄色い部分に関しては濃色の糸に負けず、しっかり表現できたと思いますが、もう少しオレンジの要素が欲しかったです。すっきりした黄色の仕上がりは良かったですが、少し生命感に欠けているように感じます。しかし、だからといってオレンジ系の糸を選択すると菜の花ではなくなってしまいます。

かように、糸で写実的な表現をしようとすると、実際にイメージしている色の糸が無いことが多いです。インスタグラムなどに投稿していますが、黄色は本当に難しくて刺繍糸の黄色自体が数本しかありません。つまり選びたくても選べないのです。

黄色の糸はどうしようもない部分もあるので、ないものねだりな感は否めませんが、敢えて残念なポイントを挙げるとすると、木々の影の部分に使った黒っぽい糸、ここはもう一工夫あっても良かったと思っています。この影になっている部分、画像を見ても、データを見ても黒に見えるのですが、木々の影に使うべきだったかどうか・・・

私は作品を見る時の距離間をとても気にして作っているのですが、この作品は1メートルくらい離れて見ると感じないのですが、近づいてみると木々の影に使った黒の糸が強すぎるように感じます。
せめて木々の影の部分だけでもデータ編集してもう少し柔らかい感じの色の糸にすべきだったかなと思わないでもありません。

作って後から作品を見ると何とでもいえるのですが、作品の上部と下部がぼんやりした色合いなので、むしろこのくらい引き締まった感じで良かったと考えると、そうだなと納得できなくもありません。

また、この色遣いにしたのにはもうひとつ、重要な理由があります。
さくらの花の色を引き立たせいという気持ちがありました。さくらの花の色はとてもデリケートで、ピンクでもなければ白でもない独特の色あいです。

ただ、この作品は桜並木を遠くから眺めることになるので、パッと見た瞬間に桜とわかりつつ、枝ぶりや細かな色も混ぜつつ写実感を表現しようとした結果、ピンクの花びらに対し、少し黄緑の糸が混ざる色構成になっています。

薄いピンクの糸を使いつつ、全体的に見た時にそのピンクが栄えるような色構成を考えるとピンク系のとなりに黒系の強い色の糸で刺繍してコントラストで桜の花の部分が引き立つように糸を選びたい。
そう考え時にはこの糸の色構成は私がねらった効果をうまく出せていると思います。

私的には解釈の難しい作品になりましたが、フォト刺繍ではこの色の糸を外すと作品の印象を大きく変えてしまう部分が何か所かあります。押さえるべきところをしっかりと押さえつつ、主張させたい部分を表現することが、フォト刺繍作品を傑作にもするし、駄作にもするんだなと再確認させられた作品だったと思います。

関連記事